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広島高等裁判所 昭和34年(タ)1号 判決 1961年12月25日

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は、原判決を取消す、控訴人と亡山田正子との昭和二一年七月一日届出による離婚は無効であることを確認するとの判決を求め、被控訴人は主文同旨の判決を求めた。

控訴代理人の事実上の主張は次のとおりである。

控訴人は大正六年一二月二八日比婆郡東城郡川島○○○○番地戸主山田正子(昭和二九年一月二七日死亡)と入夫婚姻したが、その際控訴人が戸主となる手続をしなかつたため、その後妻正子の継父修一においては何とかして控訴人を山田家の戸主にしてやりたいと考え、村役場の戸籍係に相談した結果、便宜有合せ印を使用して控訴人並びに妻正子名義の協議離婚届書を作成して昭和二一年七月一日村役場にその届出をなし、戸籍簿上一旦離婚の形式をとつた上、同月七日改めて控訴人と正子が入夫婚姻をなし且つ控訴人を戸主とする旨の届出をなし、所期の目的を達成した。然し、控訴人及び正子には全く右離婚の意思なく、右離婚の届出は控訴人等不知の間に右修一の手によつてなされた虚偽の届出に過ぎないから無効である。

控訴人の長男実は昭和一九年八月二日戦死し、控訴人は本来その遺族扶助料の支給を受ける権利を有するものであるが、戸籍簿上右協議離婚の記載があるためその支給を受けることができない。よつて右離婚の無効であることの確認を求めるため本訴に及んだもので、控訴人の請求を棄却した原判決は不当であるから、その取消を求める。

被控訴人は控訴人の主張事実中控訴人と亡正子との間の婚姻離婚等に関する戸籍簿上の記載が控訴人主張のとおりであることは認めるが、その余の事実は否認する。右離婚は真意に基いてなされたものであるから、控訴人の請求を棄却した原判決は正当であると陳述した。

証拠として、控訴代理人は甲第一、二号証を提出し、原審並びに当審における証人古田美子の各証言及び控訴人の各本人尋問の結果を援用し、被控訴人は甲号各証の成立を認めた

理由

方式及び趣旨により成立を認め得る甲第一号証(戸籍謄本)によれば、控訴人が大正六年一二月二八日比婆郡八幡村大字川島○○○○番地戸主山田正子と正子を戸主とする入夫婚姻をなしたこと、昭和二一年七月一日控訴人と正子とが協議離婚をなし、ついで同月五日改めて控訴人を戸主とする入夫婚姻をなしたことは明らかである。控訴人は右離婚は正子の継父修一が勝手に届出をなしたもので当事者の真意に基かない無効のものであると主張するので右離婚に関する事実関係を検討するに、前記の如き控訴人と正子との間の身分関係変動の経過に原審並びに当審証人古田美子の各証言及び原審における控訴人本人尋問の結果を併せ考えると、正子の継父修一は婚姻後三〇年近くにもなるのに控訴人が妻の正子を戸主としてその下に従属している立場に同情し、何とかして控訴人を山田家の戸主にする方法はないかと村役場の戸籍係古田美子に相談したところ、同女から控訴人を戸主とするためには法律上一旦控訴人と正子が離婚した上改めて夫を戸主とする入夫婚姻の届出をするほかはない旨教えられたので、右の方法をとることについて控訴人及び正子と相談し同人等の承諾を得て前記の如く協議離婚及び再入夫婚姻の届出をなしたものであることが認められる。右認定に反する当審における控訴人本人尋問の結果の一部は原審におけるそれに対比して信を措き難く、他に右認定を左右するに足る資料はない。

而して、以上認定の事実関係によれば、本件協議離婚の届出が右修一において当事者の承諾なく勝手になしたものであるとの控訴人の主張を認め得ないことは明らかである。又控訴人及び妻の正子は右離婚の届出によつて事実上の婚姻関係を解消する意思は全くなく、単に戸主権を正子から控訴人に移すための方便として離婚の届出をなしたものというべきであるが、事実上の婚姻関係丈では法律上婚姻といえないことから明らかなように事実上の婚姻関係を維持しつつ法律上の婚姻関係を解消することはもとより可能であつて、たとえ方便としてであつても控訴人や正子がその意思に基いて法律上の婚姻関係を一旦解消することを欲した以上離婚の意志なしということはできないから本件協議離婚は当事者の真意に基かないものであるとの控訴人の主張もまた採用し得ない。

してみると、本件協議離婚には控訴人主張の如き瑕疵はなく有効というべきであるから、その無効確認を求める控訴人の本訴請求は失当として棄却を免れないところである。

よつて、これと結論を同じくする原判決は正当であつて、控訴は理由がないから民事訴訟法第三八四条に則りこれを棄却することとし、訴訟費用の負担について同法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

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